「……ん、ふわふわ。……こっちにおいで」
撮影スタジオの隅っこ。ピンク色のフリフリ衣装に身を包んだこずえが、大きなクマのぬいぐるみを抱きしめて、熱心に何かを語りかけていました。
「こずえちゃん、お疲れ様! 撮影、すごく可愛かったよ。……って、何してるの?」
片付けを終えた千枝が、不思議そうに覗き込みます。
「あ、ちえ……。……いま、大事な相談中」 「ぬいぐるみさんと? もしかして、お腹が空いたとか?」 「ちがうの。……この子、おうちに帰りたくないって。……お菓子がもっと食べたいって……言ってる」 「えっ、そ、そうなの?(さすがこずえちゃん、想像力が豊かだなぁ)」
千枝が苦笑いしながら隣に座ると、こずえは真剣な表情でクマの耳をパタパタさせました。
「ちえ……。この子を、こっそりおうちに連れて帰るには……どうしたらいい?」 「ええっ!? 持ち帰っちゃダメだよ! それはスタジオの備品……あ、いや、大事な撮影道具なんだから!」 「……でも、この子……『ちえのポケットなら入れる』って」 「私のポケット!? 無理だよ、このサイズのクマさんは四次元ポケットじゃないと入らないよ!」 「……じゃあ、ちえの帽子の中……」 「脱いだらすぐバレちゃうよ!」
こずえは「むー」と頬を膨らませると、今度はクマを自分の頭の上に乗せました。
「……こうすれば、こずえの一部……。……髪の毛、ちょっと茶色くなっただけ」 「無理があるよ! 誰が見てもクマさんが乗ってるだけだよ!」 「……バレた?」 「バレバレだよ! もう、こずえちゃんったら……」
千枝がツッコミを入れると、こずえは満足そうに「ふふっ」と笑い、クマをぎゅーっと抱きしめ直しました。
「……うそ。……この子、ここが大好きだって。……また明日も、ここでちえと遊びたいって……言ってる」 「あ……なんだ、冗談だったの? もう、びっくりさせないでよ」 「……えへへ。……ちえ、おもしろい」 「もう! ほら、プロデューサーさんが呼んでるよ。クマさんにバイバイして、着替えに行こう?」 「……うん。……バイバイ、茶色いの。……また明日、こずえを可愛くしてね」
こずえは最後にクマの鼻にちょんと触れると、千枝の手を引いて、ふわふわとした足取りで楽屋へと向かっていきました。